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お昼を食べに近所の喫茶店「コンパル」へ。
茶店で読もうと思って出掛けに手をとったのが『20世紀最後の戯曲集』/野田秀樹、だった。
とくに理由はない。いつだったか随分前に古本屋で買って、そのままにしていた一冊を手に取ったまでである。

そうやって出掛けてから数十分後、「パンドラの鐘」を読み終えて、
昼下がりの「コンパル」で、とめどなく流れる涙を止められずにむせび泣く自分がいた。

なぜそんなに泣いたのか。
戯曲の素晴らしさもさることながら、311以降の個人的な鬱積が一気に反応したのだと思う。

野田秀樹さんは怒っている。
原爆投下を止められなかった日本の王に対して。
一億総懺悔という形で曖昧にするのではなく、王に対して責任の所在を突き付けている。
そして野島さんの怒りが、俺の背中を優しくさすっていった。「もっと怒っていいんだよ」、と。
そういう風に背中をさすられた時、涙が止まらなくなる状態に俺の心はあったんだな。

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ヒメ女 :およしなさい!
ヒイバア :え?
ヒメ女 :知らぬふりの茶番は。/空気のように人は見て見ぬ振りをしてきました。
この空気を狂気と呼ぶことをおそれて。でもその空気をお前たちは吸い続けてきた。
この王国は、狂気も敗北も隠し続けることで守られてきた。
けれども、パンドラの鐘の音は、すべてをあからさまにする、だからその音色に耳をかさなくてはいけない。
たとえそれが、滅びることを知らせる音色だとしても、その鐘を聞く勇気をお持ちなさい。
ヒイバア :ヒメ女様、それは勇気ではありません。勇気の名をかたった狂気です。
ミズヲ :(人々に)さあ、選ぶのはお前たち。この地の王として、空気のような狂気か、それとも勇気ある狂気か。
ハンニバル:おまえは、この地が滅びるのを待っているだけだ。
ミズヲ :ああ、そうだ。葬式王は待っているぞ。ここが滅びることを。その通りだ!
滅びるというのなら滅びるように世界はつくられているんだ。
ハンニバル:後は黙っていても、お前の国が、葬式王の国ができる。それがお前の魂胆だ。
ミズヲ :なんとでもいえ。さあ、どうする、お前達!空気を選ぶか!? 勇気を選ぶか!?

パンドラの鐘」『20世紀最後の戯曲集』/野田秀樹