6月26日

2,3日前から気温が一気に高くなって、蒸し暑い日が続いている。
張り詰めた緊張感に耐えられなくなって、堰を切ったように喋り出す。
そんな風にして、湿気が突然スコールになる。

「うへー、暑いですねー」。
「名古屋の夏はまだまだこんなもんじゃないよ〜」。
というようなやり取りを何人かとした。
今年最初のかき氷も食べた(仕事中にこっそり・・・)。


そして今日、『親指Pの修業時代』/松浦理英子を読み終えた。

まあ人生色々あるけれど、
この本にこうして巡り合えた俺は
とりあえず幸福である。

と言ってしまえるくらい、素晴らしい読書体験だった。

とくに、最初に物語に登場したときには端役だろうと思っていた保と映子の2人の存在が、
主人公である「私」の語りを通して、読み手である「私」のなかでどんどん大きくなってくる過程は、
読んでいる時は意識していなかったが、振り返ってみると驚くほど鮮やかで自然なものだった。

とりわけ、幼稚で我儘で屈折している保を受け入れる英子の感受性に、
主人公である「私」が惹かれていく過程に、読み手である「私」は完全に共感していたから、
私と映子が駆け落ちして幸せな時間を過ごしている時には、
このまま続くはずがない2人の関係がずっと続くことを願って、物語の続きを読むのを躊躇したほどである。

                                                                                                                                                                                                                                              • -

 私の眼は無意識のうちに映子の手を探していた。映子は肘を椅子の上に立て頬杖をついていた。軽く折り曲げられた人差し指を見ると、悲しみと甦る愛撫の記憶で胸が疼き、私は眼を逸らした。逸らした先には映子の胸があった。裸の胸を見馴れているのに、ベージュの薄手の柔らかなセーター越しのほのかな隆起が眩しかった。自分の反応が意外だった。スカートの表面に浮かび上がった堅そうな膝頭や、裾から覗くストッキングに包まれた脹脛にも、視線を走らせた。すべてが初めて見る物のようで、しかも個性的に感じられた。
 最後に靴の先に眼が辿り着いた時、魅惑的だった変形した右足の小指の爪を思い出した。親指ペニスを畸型と言うなら、あの崩れ果てた小指の爪だって立派な畸型である。屈託もなく快楽を貪る親指ペニスとは比べものにならない悲しみを湛えたあの爪を見て、保はいとおしさを覚えないのだろうか。彼は自分の体のことで頭がいっぱいで、映子の小さな畸型など眼に入らないのだろうか。私が保なら、あの爪があるというだけで充分映子に優しくなれるのに。
 私の感じていることを知る由もない映子は、椅子の上で背を起こした。
「もう行かなきゃ。」

                                                                                                                                                                                                                                              • -

そうそう。
とってつけたようではあるが、
同じく本日鑑賞した名古屋シネマテーク『引き裂かれた女』も大変面白かった。